性犯罪の保護法益

「どうして日本の刑期はそんなに短い?」

フラン人ジャーナリストに聞かれた時、咄嗟に頭に浮かんだのは保護法益のことだった。
保護法益とは、法律によって守られるべき権利あるいは利益のことである(船山泰範「刑法」弘文堂,H21年,p247

私もそんな言葉は、刑法を学ぶようになり初めて知った。

201510月の刑法勉強会の最初の授業で出てきた言葉であり、
重要な考えであることは教授の口ぶりからも推察できたけれど、その意味はさっぱり分からなかった。

それから、19か月フランス人ジャーナリストに説明するときにやっとその意味をつなげることができた。

フランスのレイプの刑期は15年以下の懲役だ。(刑法ジャーナル2015 vol.45 p.123)
日本の強制性交等罪(旧強姦罪)が、改正されて、懲役5年以上になったとはいえ、彼女の目から見たらあまりにも短いと思うだろう。ましてや、旧強姦罪では懲役3年だった。また、酌量減軽されて執行猶予がつくことも多かった。

どうして日本の刑期が短いかを彼女に説明するときに、私は保護法益の説明から始めた。

保護法益は、重要な順に
生命 
身体
自由
名誉
財産

となっている。
その中で、性犯罪は、性的自由を侵害する罪として上から3番目に位置付けられている。

生命 殺人罪
身体 傷害罪など
自由 性犯罪など
名誉 名誉棄損など
財産 窃盗など


つまり、心身を傷害する罪とは考えられていない。
一方フランスでは、
『その保護法益は 生命に続いて重要な「人の身体的・精神的完全性」である。それは
「自由に対する侵害」より重い犯罪としてとらえられているのである。』(女性犯罪研究会「性犯罪・被害」尚学舎,2014,p.271)

ゆえにフランス刑法は、
「どのような性質であれ、他人の身体に対して暴行、強制、又は急襲(不意打ち)によって起こされたあらゆる性的挿入行為は強姦とする」(女性犯罪研究会「性犯罪・被害」尚学舎,2014,p.270)
と定義し、また、指やモノであっても強姦は成立する。

日本と同じように性的自由を侵害する罪としているイタリアの刑期は、「5年以上10年以下」 (女性犯罪研究会「性犯罪・被害」尚学舎,2014,p.311)である。

このように何が侵害されたのか、保護法益が何であるのかという事は
刑法の考え方に大きくかかわってくる。

私は自分の経験から、私自身の心身は大きく損なわれたと感じている。
損なわれた部分はもう戻ってこないかもしれない。
それを思うと心が締め付けられる深い悲しみに襲われる。
命を奪われたわけでもなく、身体に目に見える器質的・機能的な障害が残ったわけでもない。
しかし、このような大きな傷つきの保護法益を自由とするのは無理があると私は思う。

対等な場ではなく、意思決定の機会すら与えられない状況で性的侵害は行われる。

そこには選択の自由はなく、物事を決定する以前の状態であることを考える必要があると思う。
性暴力・性犯罪とは何が侵害されているのか
刑法を論議するうえで、被害のダメージから知り、真剣に考察してほしいと切に願う。






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